ここ最近、日本の医療でも「サルコペニア」という言葉が頻繁に使われるようになってきました。
言葉自体はかなり前からあったのですが、一般的な医学用語として医師や看護師以外の人が耳にする機会が多くなってきたのはここ数年のことです。
この記事では、特にサルコペニアという言葉を初めて聞いた方や、説明は受けたけれども原因や症状の具体的なイメージがつかないという方のために、サルコペニアの診断方法や症状、原因と予防法をわかりやすく説明します。
サルコペニアってどんな状態?
サルコペニアとは、わかりやすく一言で表すなら「体の筋肉量が減少し、筋力や運動能力が低下した状態」のことです。
そもそもは1989年にアメリカの医学者が初めて発表した言葉で、日本語に訳すと元々は「高齢者において、加齢に伴って生じる筋肉量の低下」とされました。
つまり、基本的には「加齢」を原因としたものがサルコペニアとされていましたが、最近では原因を加齢に限っておらず、また単純な筋肉量低下ではなく「筋力・運動能力の低下」を伴った筋肉量の低下をサルコペニアと呼ぶ、という考え方が主流となっています。
過去に発表された、サルコペニア診断のガイドラインでは「①握力、歩行速度の低下」「②筋肉量減少」の2つを満たす場合はサルコペニアと診断することとなっています。
サルコペニアが引き起こす症状
サルコペニアになると、具体的に何が良くないの?
サルコペニア自体は「筋力・運動能力の低下」「筋肉量減少」を指すため特に症状が現れるものではありませんが、筋力・筋肉量が減少すると日常的な動作や運動・身体機能に支障をきたすため、次のような症状を引き起こします。
排尿障害
サルコペニアによって、排尿をコントロールする骨盤底筋群が弱体化し、頻尿、残尿、失禁などの排尿障害を引き起こします。
さらに排尿障害になると外出に支障が出て室内にこもりがちになることから、運動不足でさらに筋力・筋肉量が落ちサルコペニアを助長する負のスパイラルを引き起こします。
転倒・骨折
サルコペニアによって運動能力が低下すると、歩行の際に足があまり上がらず、バランスを崩した時に適切に持ち直せないため転倒・骨折のリスクが高まります。
また排尿障害と同じくこちらも、一度転倒・骨折してしまうと療養が必要となるため、運動不足でさらに筋力・筋肉量が落ちサルコペニアが加速する・・・という負のスパイラルに陥ります。
摂食・嚥下(えんげ)障害
サルコペニアによって咬筋や舌筋、喉頭筋群が弱体化することで、摂食・嚥下障害を引き起こし、食べ物をうまく噛んだり飲み込んだりすることができなくなる場合があります。
摂食・嚥下障害により各種栄養素、特にたんぱく質・アミノ酸の摂取量が不足すると筋肉量が減少するため、さらにサルコペニアが進行してしまいます。
脱水・熱中症
筋肉は水分を多く含んでいるため、サルコペニアによって全身の筋肉量が減少すると、それに伴って体内の水分量も減少し、脱水や熱中症を引き起こしやすくなります。
また脱水状態は筋肉に影響するため脱力や筋肉痛、足がつるといった状態を引き起こし、これによって運動量が落ちるとやはりサルコペニアを助長することになります。
サルコペニアの簡単な診断方法
サルコペニアを素人でもわかりやすく簡単に診断する方法として「指輪っかテスト」と呼ばれるものがあります。
これはとても簡単な診断方法で、手順はこれだけです!
②この輪で、自分のふくらはぎの最も太い部分を囲みます
このテストの結果、指輪っかよりふくらはぎの方が太く、囲めない場合はセーフ!
サルコペニアに陥っている可能性は低いと判断できます。
ちょうど囲めるという場合、サルコペニアの可能性は中程度です。
もし指輪っかよりふくらはぎのほうが細く、輪っかとふくらはぎの間にすきまができてしまった場合は要注意。
サルコペニアの可能性が高いので、かかりつけ医に相談してみましょう。
サルコペニアになる原因は?
指輪っかテストはどうだったでしょうか。
特に、サルコペニアの可能性が高いと判断された方は「なぜそうなったのか?」という原因が気になるでしょう。
サルコペニアに陥る原因は2種類あり、「加齢」を原因とする原発性サルコペニア、「病気や低栄養・低活動」を原因とする二次性サルコペニアと呼ばれるものがあります。
原発性サルコペニア
一般的に、運動機能や筋肉量は加齢が進むにつれ低下していきます。
加齢という誰もが避けられないものを原因としていますが、適切な栄養摂取と運動習慣である程度予防が可能です。
二次性サルコペニア
様々な病気のほか、低栄養・低活動状態がある程度続くことで引き起こされるものは二次性サルコペニアと分類されています。
低栄養状態が続くとたんぱく質・アミノ酸が不足することから筋肉の生成が衰え、運動機能・筋肉量の低下をもたらします。
同じく低活動状態の場合は、たんぱく質・アミノ酸を摂取していても筋肉の生成に必要な運動が不足しているため、やはり運動機能・筋肉量が低下します。
また病気を原因とした二次性サルコペニアは、医療現場で頻繁に見られます。
例えば心不全などの心臓病を患っている場合、一定期間の入院や安静を強いられるため、運動不足により容易にサルコペニアを引き起こします。
また糖尿病(2型)は筋力の低下や疲労度の上昇、筋肉の回復速度の低下をもたらすため、やはりサルコペニアを引き起こす原因となります。
その他、骨粗しょう症と診断された場合も、骨折のリスクが高く二次性サルコペニアが発生しやすい状態と言えます。
サルコペニアの予防法
サルコペニアはどんな人でも陥る可能性のあるものですが、基本的には適切な運動と栄養摂取によって予防することができます。
運動・栄養についての生活習慣を改善することで、サルコペニアに陥る可能性は大きく低下させることができるのでぜひ心がけてみてください。
運動
・筋持久力をアップさせる有酸素運動(ウォーキング、ランニング等)
これらの運動を、毎日でなくてもいいのでまずは週に2~3回程度の頻度で始めてみます。
頻度が高くなくても、長期にわたって継続していくことが重要です。最低3ヶ月は続けてみてください。
栄養
サルコペニアの予防という観点では、ヘルシーさをやたらと重視するのではなく、筋肉の原料となる良質なたんぱく質・アミノ酸を十分に摂取することを心がけます。
運動量に見合わないカロリーを摂取すると肥満の原因になってしまいますので、カロリーの摂取過多にならない範囲で肉・魚・牛乳・大豆製品などを摂取し筋肉の基礎を作りましょう。
この他、筋肉の土台となる骨を丈夫にするためビタミンDの補給も必要です。
あまり知られていませんが、ビタミンDは日光を浴びることより体内で生成することができるため、屋外での運動や日光浴なども積極的に行いましょう。(生成には不飽和脂肪酸を必要とするため、魚や植物油を適切に摂取していることが前提です)
サルコペニアについてのまとめ
ここまで、サルコペニアとは何かわかりやすく説明したつもりですが、改めてポイントをまとめておきます。
・サルコペニア自体に症状はないが、日常的な動作や運動・身体機能に支障をきたすため、様々な症状が発現する
・「指輪っかテスト」でサルコペニアを簡易的に診断できる。リスクが高い場合はかかりつけ医へ
・加齢を原因とする原発性サルコペニア、病気・低栄養・低活動を原因とする二次性サルコペニアがある
・適切な運動と栄養摂取によってサルコペニアは予防することができる
指輪っかテストをやってみて、リスクが高いと判定された方は特に注意です。
いくつになっても健康で元気に過ごすために、今日からサルコペニア予防を始めましょう!
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